トップページ/ 慶余年

コラム

文・林穂紅

印象的なシーンが盛りだくさんの『慶余年』。どのエピソードにも伏線が張られているので目が離せないが、特に押さえておきたい7つのポイントをピックアップしてご紹介しよう。

見逃し厳禁!『慶余年』7つの見どころ徹底解説

1.思わず喝采!サクサク進む少年時代
現代の記憶を持ったまま戦乱の世に転生した范閑は、祖母の住む田舎町・澹(たん)州で、亡き母の下僕・五竹(ウージュー)に武術を、都にいる父が遣わした費介(フェイ・ジエ)に医術と毒薬の扱いを学んで成長する。原作では38章を費やしたこの少年時代を、ドラマでは1話分に濃縮。にもかかわらず、必要な要素をきっちり押さえたワクワクする展開はお見事としか言いようがない。利発な范閑少年を演じた名子役・韓昊霖(ハン・ハオリン)の演技も喝采を浴びた。1話のラスト、范閑少年はたった40秒で青年へと成長するが、このシーンも重要なのでお見逃しなく!
2.クセ者ぞろいの登場人物たち
個性的なキャラクターには事欠かない本ドラマ。武芸の達人・五竹が見せるぎこちない動きや、皇宮を警護する燕小乙(イエン・シャオイー)の食べっぷり、いつも寝起きのような慶帝がたまに見せる正装など、細かい描写にも注目したい。クセ者キャラの筆頭格といえば、髪型がアルパカみたいでかわいいと中国では大人気だった第二皇子役の劉端端(リウ・ドゥアンドゥアン)。実は、第8話の「私も共に楽しみたいが人混みは嫌いだ」という彼のセリフは現場でのアドリブなんだとか。伏線にもなり、通行人役のエキストラも減らせて一石二鳥だったそうだ。
3.あり得ない、なのにリアルなバトルシーン
男子向け小説が原作とあって、アクションの見せ場も満載。モンスターのような怪力男や、あり得ないほど強い武芸者たちを迎え撃つ肉弾戦は、華麗なカメラワークで臨場感たっぷり。他にも詩作バトルや敵国宰相とのだまし合いといった頭脳戦、敵国の聖女・海棠朶朶(ハイタン・ドゥオドゥオ)とのダンスのような対決など、バラエティー豊かなバトルシーンが用意されている。
また、中華圏で一番人気の作家・金庸の影響もあり、武侠ドラマの戦う動機は長らく「あだ討ち」だった。最近は『羅小黒戦記』や『山河令』など、それをいさめる作品がトレンドになってはいるが、ドラマ版『慶余年』はあえて「あだ討ち」を前面に出して武侠ファンの心をつかんだ。と同時に、復讐された側の痛みもリアルに描き、見る人にジャッジを委ねているところが新しい。
4.手に汗握る食事シーン
「ご飯食べましたか」があいさつになっているほど、食を大切にする中国。当然、ドラマの食事シーンも見どころの一つだ。特に第4話、范閑一家が初めて食卓を囲むシーンは前半の名場面の一つ。范閑に刺客を差し向けた黒幕と疑われる継母と、そのボンクラ息子、ブラコン妹、やたら厳格な父が一堂に会し、ウソくささ全開なのになぜか和める団らん風景に仕上がっているのが笑える。ボンクラ息子を演じる郭麒麟(グオ・チーリン)の父は超大物漫才師・郭徳綱(グオ・ダーガン)。役者が頑固オヤジで知られるだけに、息子の演技が余計リアルに感じるのかも。
同様の食事シーンは後半の第32話にも登場する。今度は慶帝、皇太子、第二皇子の朝食に范閑が相席することに。熾烈な後継者争いのさなかの手に汗握るシーンをじっくり見てほしい。
5.“鶏肉の君”とのすれ違いロマンス
上京した范閑を待っていたのは見も知らぬ姫君・林婉児(リン・ワンアル)との縁談。現代人の范閑はそれに我慢がならず、あの手この手で破談を画策する。しかし林婉児こそ、神聖な慶廟で鶏モモ肉をかじっているところを見つけ、范閑が一目ぼれした美少女だった。お互い名前を知らない2人のすれ違いはハラハラドキドキ。だけど、このロマンス、もっとステキなのは再会してから。最初の出会いさえも誰かに仕組まれていたのではと落ち込む范閑に林婉児がかけた言葉は、彼女の愛を感じて思わずグッとくるものがある。現代からたった一人でやってきた范閑にとって、林婉児こそ彼とこの世界を結ぶ絆なのだ。
6.全編の隠し味・転生やSFを感じるシーン
本編が時代劇なので忘れがちだが、この物語は大学生・張慶(チャン・チン)がSF小説コンテストに応募した作品ということになっている。現代パートに登場する近未来的な大学研究室は、天津の濱海新区図書館でロケしたもの。登場人物たちの服飾、范閑が詠む詩、シャオ・ジャンの歌うエンディング曲「余年」の歌詞など、転生を匂わせるディテールを探すのも楽しい。慶国の人々にとっては自由と平等がモットーの現代人・范閑がSF的存在なのだが、見る側も范閑を通じて現代が果たして自由で平等な社会なのか考えずにはいられない。こんなところも、時代劇と転生という設定が合わさった本作ならではの魅力だ。
7.古典小説『紅楼夢』とのつながり
范閑は、文武両道のモテ男という、ライトノベル設定そのもののチートっぷり。絶体絶命の危機にはタイミングよく救世主が現れ、万事が都合よく進む。だが彼は気づいてしまう。自分はしょせん、誰かの駒に過ぎないのでは…? そこから、自ら運命を切り開こうとする范閑のさらなる奮闘が始まる。原作では范閑がこうして悔いのない人生を生き直す。しかし、ドラマではどうだろう。彼の運命を決めるのは、現代パートで『慶余年』を書いた作者の張慶ではないのか? 第1話で張慶が言うように、タイトルの『慶余年』は古典小説『紅楼夢』から取られた。『紅楼夢』の主人公・賈(か)宝玉は、物語の中で他の登場人物たちの運命を夢に見る。しかし彼自身は天の住人で、地上での生は仮のもの。范閑の屋敷の庭に幾重もの洞門が連なっているシーンが象徴するように、物語の外にはまた物語が連なり、中にいる者には外が見通せない。ギャグ満載のコメディーに時折のぞく深淵。これも『慶余年』の見どころの一つだろう。

「大ヒットした4つの理由!」次へ