トップページ/ 慶余年

コラム

文・林穂紅

中国での『慶余年』人気はすさまじい。動画再生回数は82億回を突破、コアなファンはドラマに登場する秘密機関「鑑査院」の部署名にちなんで「八処男孩女孩(ボーイズ&ガールズ)」と呼ばれ、自主イベントや二次創作も盛んだ。話が面白くて映画並みの映像とくれば高評価は当然だが、ここまで大ヒットしたのは、ひとえに男女問わずいろいろな世代が楽しめたからだろう。今回は「慶余年」の大ヒット理由を4つの点から紐解いていきたい。

総合力の高い上質なエンターテインメントドラマ 大ヒットした4つの理由!

1.多くの原作ファンが納得した脚本
そもそも、人気作家マオニー(猫腻)による原作がすごい。ネット小説のバイブル的存在で、ダウンロード数は2000万を優に超す。だが、ベストセラーのドラマ化は諸刃の剣。基礎票は見込めるものの、“魔改造”(安易な改変)と見なされればアンチを増やす危険もある。幸い、ワン・ジュエン(王倦)の緻密でテンポのよい脚本は、原作ファンも納得の出来栄えだった。
2.見る人を選ばないジャンルの多様さ
ネットドラマの隆盛もあり、中国では年々、視聴者が細分化される傾向にある。しかし、アクション×ラブ×ミステリー×転生いずれの要素も本格派の『慶余年』なら、どのジャンルが好きな人でも楽しめる。伏線回収やどんでん返しの連続で思わず語りたくなる内容ということもあり、お茶の間や大学の宿舎でワイワイ突っ込みながらの鑑賞を可能にした。さらに、ベースがおやじギャク満載のコメディとあって、SNSでもネタにしやすい。8つのドラマ人気度ランキングで1位に輝いたのも頷けるというものだ。
3.愛され主人公・范閑の魅力 
どんな危機にも余裕で振る舞い、頭が切れて腕も立ち、強者にひるまず弱者を見捨てない——人気俳優チャン・ルオユン(張若昀)演じる范閑は、そんな「孫悟空」型の主人公。宿命や権威にとことん抗うところもよく似ている。昔から中国の庶民に一番愛されてきたタイプのヒーローだ。
一方で范閑は、現代の若者の代表でもある。アウェイの地で、快活な表情の下に孤独を隠して奮闘し、友や愛する人に出会って成長する。その姿に若者たちは地方から都会に出て頑張る自分を重ね、共感を覚えるのだ。
4.若手からベテランまでの絶妙なキャスティング
中国のネット小説のプラットフォームは大きく男子向け、女子向けに分かれている。『慶余年』は男子向けのプラットフォームに発表されたため、当初はドラマも若い男性向けと思われていた。それを変えたのがキャスト、特に『陳情令』で大ブレイクしたシャオ・ジャン(肖戦)の存在だ。「シャオ・ジャン目当てで見始めたら面白かった」——発信力のある女性たちの口コミでファン層は一気に拡大。一方、“老戯骨”(ベテラン演技派俳優)の競演は有力紙やTVに取り上げられ、ネット世代以外の年齢層も引きつけた。
他にも、個性的な登場人物にピタリとはまって人気が出た俳優は数多い。范閑の弟・范思轍役のグオ・チーリン(郭麒麟)、妹・范若若役のソン・イー(宋軼)は共に本ドラマでファンを増やし、新作ドラマ『贅婿(原題)』では夫婦を演じてスマッシュヒットを飛ばすなど、活躍が続いている。

「7つの見どころ徹底解説」次へ