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『贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~』の魅力を徹底解説<後編>ネタバレ有 ニッチな世界へようこそ!「贅婿」をさらに楽しむ6つの小ネタ

極上のエンタメにふさわしく予備知識ゼロでも十分楽しめるドラマだが、パロディーてんこ盛りの上、細部にもこだわった作品だけに元ネタを知っているとさらに楽しめる。以下、予習やリピート鑑賞のお供として、選りすぐりのトリビアネタをお届けしよう。

文・林穂紅

その1 男女逆転ネタに込められた深〜いメッセージ
贅婿として迎えられる主人公の寧毅は、花嫁同様、みこしに乗せられ、お囃子付きでさらし者となり、けがれを清める火をまたいで蘇家の門をくぐる。そんな寧毅が贅婿の分際で妓楼遊びをした罰として行かされるのは、婦徳ならぬ男徳を叩き込む“男徳学院”。そのモットーは「夫唱婦随」ではなく「婦唱夫随」だ。男女あべこべなのに加え、不機嫌MAXな寧毅の表情が笑いを誘うが、よく考えれば、そんな待遇は男女問わず誰だってイヤに決まっている。一方、男徳学院のクラスメート4人組(F4と呼んだら褒め過ぎ?)が内助の功に幸せを見出すところに、女性同様、男性の役割も決めつけないでほしいという確固たるメッセージを感じる。
その2 「慶余年」のキャストが大集結!
「慶余年」の出演者が絶妙な配役で登場するのも、ファンにはたまらない。「慶余年」で主人公の弟役と姉役だったグオ・チーリンとソン・イーが今回は夫婦役で主演しているのに加え、2人の兄だったチャン・ルオユン、母だったジャオ・コー、父だったガオ・シューグアンがキャストに顔をそろえる。お金もうけが好きな恐妻家を演じていたティエン・ユーの新しい役柄も、ツボにハマること間違いなし。後半にも意外な大物が登場するのでお見逃しなく!
その3 グオ・チーリン面目躍如の漫才ネタ
主演を務めるグオ・チーリン(郭麒麟)の本業は“相声芸人”。“相声”は日本で言えば漫才が近いが、モノマネや歌、講談など、幅広い芸を含む中国の伝統的な話芸だ。父親のグオ・ドーガン(郭徳綱)は中国を代表する超・超・大物漫才師。SNSのフォロワー数は7300万人を超え、来日公演も大盛況だったが、最近では漫才のつかみで「グオ・チーリンの父です」と名乗っているとか。グオ・チーリンの活躍は、まさに麒麟児の面目躍如といったところだ。
当然、主演ドラマで漫才ネタは欠かせない。挙げればキリがないが、例えば第3話で酔っ払った寧毅が歌うのは、自身の持ち歌「俏才郎」。伝統曲「打新春」のメロディーに、漫才の幕間で歌われる小唄「遊西湖」の歌詞がついている(ちなみに作詞はグオ・ドーガン)。
第8、9話で繰り広げられる椅子を巡る攻防も、日本のハリセン芸のようなお笑いの鉄板ネタ。第11話に出てくる竹記飯荘のエピソードは、父グオ・ドーガンの持ちネタ「豆腐堂会」をほうふつとさせる。ピータンのような箸休め程度の前菜で大げさな開店パーティーを開くくだりは、「豆腐堂会」で語られる豆腐屋の開店パーティーにそっくりだ。
物売りの声色芸も相声ではおなじみ。第5話で寧毅が研修する「お客さま、何かお探しで?」という接客フレーズも、声色芸の一つ。その昔、柳原加奈子がはやらせた店員のモノマネのようなもので、このシーン自体は俳優のワン・イェンリン(王彦霖)が、バラエティー番組で披露した爆笑ネタのパロディーのようだ。
その4 衣装に秘められたメッセージ
布商を舞台にした物語ということもあり、衣装デザインにも気合いが入っている。中国トップレベルの劇場・国立歌劇舞劇院の首席衣装デザイナーを務め、「有翡-Legend of Love-」「トキメキ☆雲上学堂スキャンダル~漂亮書生~」など、数々の人気ドラマを手掛けたヤン・ドンリン(陽東霖)氏率いるチームが制作を担当。演出の意図を細やかな工夫で表現した。
例えば、ヒロイン・蘇檀児の衣装に施されたクチナシやスイカズラの刺繍は、地味だが冬に耐える常緑樹のような、芯の強さの象徴だ。また、夫である寧毅の衣装とはさりげなくペアルックになっているとのこと。色、形、柄、どんなところがおそろいかチェックしてみるのも楽しい。
また、前半で2人のまとうパステルカラーの色使いは天下泰平の桃源郷を思わせるが、物語の展開に合わせて色合いにも変化が付いているので要注目だ。
その5 あるはずないのに? 転生ならではの現代ネタ
寧毅がうっかり口にした現代語をごまかす場面では、日本語字幕の技がさえる。例えば第3話では、古代にあるまじきジャンボ宝くじ抽選会のようなルーレットが登場し、「しぇあ貝(シェア買い)」が催される。原語では“拼刀刀”(死闘ハサミ投げの意。“拼”には「死闘」のほか、「シェア」の意味もある)だが、これは共同購入の大手プラットフォーム“拼多多”のもじり。なお、このネタに乗じて拼多多の関連会社が“拼刀刀”を商標登録するというオチまでついた。
それから、蘇家のコワモテ侍衛・耿直が作中で愛読していたロマンス小説「ツンデレ婿殿に愛された」は、中国の恋愛ドラマで一番人気のジャンル「覇道総裁(ツンデレC.E.O)」もののパロディー。「ツンデレC.E.O」が中国女子の憧れのジャンルということは、当然、現実の男子はツンデレでもC.E.Oでもないということだが…。
その6 それでも“時代劇っぽさ”を押さえた歴史ドラマ
視聴者が義務教育で習ったレベルの古典を引用することで当時の雰囲気を出すのは、中国時代劇のお約束。第9話の蘇檀児のセリフ、“食不言 寝不語”(食事中と寝る時は黙る)は「論語」からの引用だが、メガヒットドラマ「陳情令」で“食不言”がバズったので、その影響もあるかもしれない。2語で1セットなのに「陳情令」には“寝不語”が出てこずモヤモヤした人も、「贅婿」でようやくスッキリしたことだろう。
さらに、古代中国では貴公子たるもの琴(楽器)・棋(囲碁)・書・画と、礼儀・弓術・馬術・算術に通じていなければならない。主人公がこれらをこなすシーンを挟むのも、中国時代劇のお約束。われらがヒーロー・寧毅も例外ではないが、弓術はちょっとヒネった形で登場するし、馬と楽器は唐突過ぎて笑える。
なお、メロディーが現代風なので気が付きづらいが、エンディング曲の歌詞は宋の詩人・蘇東坡の作品「水調歌頭」。2022年の春節、1億人以上が視聴したネットTVの祭典でグオ・チーリンとソン・イーがデュエットし、「贅婿」第2シーズンへの期待を盛り上げた。今後の続報も見逃せない。

『贅婿』の魅力を徹底解説<前編>