ヒロイン・谷田部みね子を演じるのは、連続テレビ小説「あまちゃん」以来の朝ドラ出演となった有村架純。このキャスティングは、脚本をつとめた岡田惠和の希望でもあったという。近年は“女性の一代記“を描くことが多い朝ドラの中で、何かを成し遂げるわけでもなく、ただ一生懸命に生きるヒロインを、その高い演技力とやわらかな佇まいで魅力たっぷりに演じている。みね子の初めての恋人となる大企業の御曹司・島谷純一郎を演じたのは竹内涼真。物語から姿を消した際にはネット上で“島谷ロス”が話題に。本作をきっかけに知名度をあげると、「過保護のカホコ」「陸王」といった人気ドラマに立て続けに出演し、2017年大ブレイクをした。その他にも、「すずふり亭」の見習いコック・前田秀俊を演じた磯村勇斗や、「乙女寮」メンバーの佐久間由衣、松本穂香、藤野涼子、光男に恋する米屋の娘・米子を演じた伊藤沙莉など、多くの若手俳優がこの作品をきっかけにステップアップを果たしている。朝ドラならではともいえる若手俳優たちの活躍にも注目だ。

脚本を担当したのは、連続テレビ小説「ちゅらさん」「おひさま」などを手掛けた人間ドラマの名手・岡田惠和。もともとはヒロインが生きた10年間を描くドラマとなる予定だったが、岡田の登場人物に対する愛情ゆえにエピソードがふくらみ、結果的に4年間という短い期間を濃密に描くことになった。「どうしようもなく起きてしまう悲しい出来事に幸せな出会いが勝つ、そんなドラマ」と岡田がインタビューで語ったように、父が行方不明となったみね子をはじめ、物語には人前では見せることのない悲しみを抱えた人たちが多く登場する。増田明美のナレーションで“朝ドラによく出てくる変なおじさん”と称され、常に笑顔を絶やさないみね子の叔父・宗男もそんな一人。そんな宗男が「人を救うのは人だよ。みんながそうすりゃ、世界はきれいに回ってくよ」と劇中で語るように、人と人との“幸せな出会い”が悲しい出来事を乗り越えていくさまに、多くの視聴者が心をつかまれた。
故郷・奥茨城村で暮らす人たちや、工場で共に働いた「乙女寮」の仲間、「すずふり亭」の同僚や下宿先「あかね荘」の住人、そしてヒロインのみね子。物語が終わった後も、ふと「彼らは何をしているのだろう？」と考えてしまうような、愛すべき人たちの心あたたまる物語だ。
放送終了後もその人気は衰えず、2019年3月には続編となる「ひよっこ2」がスペシャルドラマとして放送されている。

物語の舞台となる1960年代後半は、日本が戦後復興を成し遂げ、東京オリンピックも開催されるなど、まさに急成長した時代だった。ドラマは架空の人々の物語だが、当時のニュースや流行などがいくつも取り入れられ、登場人物たちが実在しているかのように感じることができる。東京オリンピックにはじまり、ビートルズの来日公演、ツイッギーとミニスカートブーム、昭和のスターや誰もが知っているヒット曲など、同じ時代を過ごした人たちには懐かしく、当時を知らない世代にとっては当時を追体験できるのも、ドラマの見どころのひとつだ。